第2回2015.12.22声明の会 パリ公演帰国報告演奏会・アンサンブル浮岳と共演
第一部
「音の干渉」 第九番 …… 丹波 明作曲
尺八:福田 輝久・三味線:杵屋 子邦
〈干渉〉Interferenceとは、物理学の分野で同一点に会し合う音、または光の運動が、互いに強めあったり弱めあったりする現象をいう。
細胞構造による日本伝統音楽の書法と、
ヨーロッパの十二音主義以後の書法とを基礎として使用している私には、
この二つの書法が〈干渉〉し合い、新しい音楽感を創造するという願いがあり、この題名はそのような思いからつけられたものである。
この試みはすでに様々な洋楽器の作品になされてきたが、日本の伝統楽器に当てられたのはこの〈音の干渉〉シリーズが最初となる。
―丹波明プログラムノート抜粋―
木霊
(こだま) ……吉田 進作曲
バッハ ・ ソナタ第一番より アダージオ ヴァイオリン:渡邊 篤子
木霊は短い、ユニークな曲です。人間は自然の一部に過ぎず、作曲家も自然と人間のリレーションシップを感じています。
人が弦を振動させて発生した音響は、ヴァイオリンの木に宿る霊に支えられて音楽に変容しますが、
その霊の原初的活動を凝視して描いた作品です。次のバッハの音楽はすべてを包み込む、
人間存在の根源を問い掛ける音楽だと思います。 (矢崎彦太郎)
鳥の歌 …… カタルーニャ地方の民謡 オンド・マルトノ: 原田 節
カザルスが1971年国連本部の会議場で演奏した曲です。
空を飛ぶ鳥たちはピース、ピースと歌うのです、
とカザルスはスピーチで語りこの曲を演奏しました。
世界中の鳥たちが集まる森で、不気味に迫りくる兵隊の足音を打ち消すかのように鳥の歌が聞こえてきます。
盤渉調 音取
(ばんしきちょう ねとり) 白柱
(はくちゅう)
篳篥
(ひちりき) :桑 賢治 / 龍笛
(りゅうてき):越後 眞美
盤渉調は西洋音楽の「ロ短調」に相当します。雅楽の世界では冬の調子とされ、古くは冬に演奏されました。
因みに双調
(そうじょう)は春、黄鐘調
(おうしきちょう)は夏、
壱越調
(いちこつちょう)は土用、平調
(ひょうじょう)は秋の調子とされています。
音取とは、一種の音あわせで、耳ならしともいうべき役割を持つごく短い
(1分前後)楽曲で、雅楽の各調子に配されています。
音取はごく短いながらも、各調子の音階や旋律法が巧みに取り入れられていて、音取からだけでも、
その調子の持つ音楽的特徴を味わい知ることができます。
白柱の曲は元明天皇即位のとき
(707年)作られたと伝わり、近年では昭和天皇の御大葬に演奏されました。
アンサンブル浮岳のプロフィル
深大寺聲明の会に集う音楽家集団。命名は深大寺張堂完俊住職。浮岳は深大寺の山号。
篳篥
(ひちりき) :高桑 賢治
東京藝術大学卒業。在学中に雅楽の授業を受け、卒業後雅楽篳篥全曲を東儀博氏より伝承を受ける。
他に薗広晴氏に左舞、多忠麿氏に左舞と合奏、芝祐靖氏に左舞と合奏をそれぞれ師事。
また芝孝祐氏より左舞「抜頭」の指導を受ける。個人的な演奏活動の他、東京楽所や皐月雅楽会の一員として、
国立劇場他数々の公演・CD録音等に出演。雅楽『桜韻』同人。各種同好会やカルチャーセンターの講師や
個人指導を通じて雅楽を広める活動にも携わっている。元東京藝術大学非常勤講師。
龍笛
(りゅうてき):越後 眞美
東京藝術大学雅楽専攻卒業。川口智康氏に龍笛、田淵光子氏に左舞の手ほどきを受ける。
芝祐靖氏、芝孝祐氏に雅楽横笛、琵琶、歌、左舞を師事。個人的な活動として古典雅楽をアンサンブル、ソロで行う他、
現代曲でオーケストラやブラスバンド、ピアノ等と共演・録音。雅楽団体として伶楽舎、音輪会、東京楽所、皐月雅楽会、
東京藝術大学邦楽科等の国立劇場他の国内公演や欧米公演、録音に参加。雅楽『桜韻』同人。
2001年文化庁インターンシップ研修生。国立音楽大学、東京学芸大学非常勤講師。元東京藝術大学非常勤講師。
ヴァイオリン:渡邊 篤子
東京藝術大学音楽部器楽科卒業後、渡欧。パリ・エコール・ノルマルをプルミエプリで卒業。
ヨーロッパ各地でリサイタル、室内楽演奏会に出演する一方、ベルゲン交響楽団と武満 徹の作品をノルウエーで初演するなど、
現代作品も精力的に紹介している。フォンテンブロー市立コンセルヴァトワールを経て、国立フレンヌコンセルヴァトワール、
アニエール市立コンセルヴァトワールで教授を務め、若手ヴァイオリニストの指導・育成にあたる。
尺八:福田 輝久
中村梅山師より都山流尺八、宮田耕八師より琴古流尺八を学ぶ。
多くの作曲家と交わり現代音楽作品に触れる中、福田自身の吹き方を見出す。
“聖流尺八”と命名し、尺八という楽器の表現自在を目指す。
1980年半ばより尾崎敏之・内河弘之・伴幸也・角篤紀・金田潮兒・和泉耕二・土居克行・伴谷晃二各氏等と新作展を展開。
2002年在フランスの作曲家丹波明氏と出会い杵屋子邦と共に“邦楽聖会”を結成。丹波明氏を音楽監督に迎え、
以後東京・フランスを中心に演奏活動。そのテーマは“伝統と刷新”である。
フランスにおいてはパリ日本文化センター、グランパレ、トロネ音楽祭、日仏交流150周年記念公園(国際交流基金)など。
また近年は東アジア諸国の公演も盛んであり、中国音楽学院・南寧芸術学院より招聘、
香港政府主催リサイタル、韓国慶州東アジア管楽器音楽祭など。
三味線:杵屋 子邦
長唄を杵屋勝喜枝・杵屋勝八重・杵屋長光各師に師事、作曲家杵屋正邦師に現代三味線曲、細棹・中棹・太棹三味線の演奏法を学ぶ。
又、杵屋正邦作品の初演・放送・録音を数多く手掛ける。洋楽系作曲家とも交流し三味線音楽の領域を拡げてきた。
国立劇場主催公演、現音展、作曲家協議会展、また郷里北九州市響ホル邦楽展プロデュースなど。
2002年フランス在住の作曲家丹波明氏との出会いにより“邦楽聖会”を福田輝久と共に結成。東京・フランスにて公演活動を開始。
オンド・マルトノ: 原田 節
慶應義塾大学経済学部を卒業後渡仏、パリ国立高等音楽院オンド・マルトノ科を首席で卒業、
演奏家としての積極的な演奏活動を開始した。
特に20世紀を代表するフランスの作曲家故オリヴィエ・メシアン作曲「トゥランガリーラ交響曲」のソリストとしての演奏会は、
カーネギーホール、パリ・オペラ座、ミラノ・スカラ座といった主要な劇場で20ヵ国250公演を超え、
同曲をオランダ王立コンセルトヘボー管と録音したCDはフランス・ディアパゾンドール賞を受賞するなど、
世界的な評価を確固たるものとしている。ピアノを遠山慶子女史、オンドマルトノを故ジャンヌ・ロリオに師事。
2014年9月にオペラ《白峯》に出演。2011年よりInterFM「Oh!BOY」でDJを担当
作曲家:丹波 明
1932年横浜生まれ。東京藝術大学作曲科卒業後、60年フランス政府給費留学生としてパリ国立高等音楽院に入学し、
オリヴィエ・メシアンに師事。作曲で一等賞、リリー・ブランジェ賞、ディボンヌ・レ・バン賞等を受賞。
64〜67年フランス国立放送研究所にて「具体音楽」研究に従事。68年フランス国立科学研究所哲学科に入り、
98年主任研究員に就任。
70年以降、作曲、音楽学の二分野で活躍。録音はピアノ協奏曲「曼荼羅」、
チェロ協奏曲「オリオン」、弦楽四重奏「タタター」等。音楽学の分野では71年『能音楽の構造』
によりソルボンヌ大学より音楽博士号、日本翻訳家協会文化賞、84年『日本音楽理論とその美学』
により同大学よりフランス国家博士号を授与される。日本国内の著書には『創意と工夫』『「序破急」という美学』
(音楽之友社)がある。2012年、パリ在住50年の記念公演が行われ好評を博した。
2014年9月、京都・名古屋・東京においてオペラ《白峯》が上演される。
作曲家:角篤紀
福岡生。鹿児島大学で土壌学、武蔵野音楽大学で作曲を学ぶ。'99石井眞木氏と共に
Music from Japan(MFJ)ゲスト作曲家として渡米、尺八「蓮魚」米初演。'02レイキャ
ビク芸術祭招聘。国際交流基金助成を受ける。'07 MFJ招聘、琵琶「陽光の庭」米初演。
'09角の尺八作品群研究のため日米芸術家交換プログラムフェロー来日。同年ギメ美術
館で尺八「江織」仏初演。'10琵琶「篠ノ井」NHK放送初演。'13同「鴫立」日本・カナ
ダ初演。'14尺八「譜暦」日仏初演。'15山形村清水寺で琵琶「五枚の古地図のための
組曲」初演。'08年から琵琶「聚の会」座付き作曲家を務める。
指揮:矢崎彦太郎
鎌倉生まれ。4才よりピアノを始め、上智大学数学科に学ぶも、音楽の志し捨てがたく、
同大学から東京芸術大学指揮科に再入学、金子登、渡邊暁雄、山田一雄各氏に指揮法を学ぶ。
'72年東京ユース・シンフォニー・オーケストラのスイス演奏旅行に指揮者として同行、
公演後ヨーロッパに留まる。'75年ボーンマス交響楽団定期演奏会を皮切りに本格的に指揮活動を開始。
'79年には東京交響楽団定期を指揮し日本にも本格的なデビューを果たす。
'94年よりフランス国立トゥールーズ室内管弦楽団主席客演指揮者、'00年よりバンコク交響楽団名誉指揮者を、
'02年より東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団首席客演指揮者、'04年よりバンコク交響楽団音楽監督、
'05年よりヌサンタラ交響楽団(インドネシア)音楽監督を務める。長年にわたる日仏音楽交流への貢献に対し
フランス政府より'08年2月には芸術文化勲章オフィシエを叙勲。パリ在住。
第二部
聲明 …… 合行曼荼羅供
(ごうぎょうまんだらく)
出仕 天台聲明音律研究会・深大寺院内
張堂完俊 深大寺住職
(ヨーロッパ公演)
純快 深大寺院内
(ヨーロッパ公演)
玄昌 〃
芳俊 〃
舜道 〃
堯春 〃
昌秀 〃
亮求@ 福泉寺
(ヨーロッパ公演)
明衍 大円寺
(ヨーロッパ公演)
信晃 東光院
(ヨーロッパ公演)
四智梵語讃
(入堂讃)しちぼんごさん (にゅうどうさん)
梵語による仏の四智
(大円鏡智,平等性智,妙観察智,成所作智)をたたえる曲
四智漢語讃
(着座讃)しちかんごさん(ちゃくざさん)四智梵語讃の漢訳の曲
唄匿
ばいのく (云何唄 うんばがい)
唄伝されている僧侶しか唱えられない天台聲明の秘曲の一つ。「いかにすればこの経により悟りの境地に達することができるの
か、願わくは一同のために、秘密の教えを開いて広く説いてください」という、修行者から仏への祈りが込められています。
散華
さんげ
寺院ではいろいろな法要を営むとき、仏さまをお迎えする道場を清浄
(しょうじょう)
にして、諸々の仏さまを讃歎
(さん
だん)し、供養するために花が撒かれます。これを散華といいます。
対楊
たいよう
二箇法要
(にかほうよう) の散華
(さんげ) に付随する曲。教会音楽のカノンと似る。
原義は応対・称揚することで、唱え方
は,先唱者が一句を唱え、所定の位置までくると全員がその句の冒頭から唱えるという「次第取り」の方法で一句ごとに礼拝
を行う。
表白
ひょうびゃく
法会
(ほうえ) に際し、その趣旨や所願を本尊に対して表明するものです。三つの部分から成り、
初めに本尊聖衆などの三宝
(さんぼう) への帰依を表わし、次に法会や作法のおもな対象やその徳を講讃し、最後に行者の意志や祈願を述べる。
供養文
くようもん 唱礼師が漢音でほとんど独唱する。
唱禮
しょうれい 四方の四仏や一切の仏菩薩の名を唱え恭敬礼拝する。
驚覚真言
きょうがくしんごん 驚覚とは迷いと煩悩に染まる人間を仏の道へと目覚めさせること。導師が印を結ん
で独唱。
九方便
くほうべん
九方便とは胎蔵界の懺悔の頌に九種あることから、こう名付けられ
ました。菩薩の行願であり、仏道を成ずる方便です。拍子の曲で今
回は三種のみ唱う。
五大願
ごだいがん 菩薩が仏道を求めるときに最初にたてた五つの誓
い。導師の独唱曲。
大讃
だいさん
胎蔵界曼荼羅の本尊讃で大日讃ともいう。九方便において延拍子が
使用されているが、大讃にもこの延拍子
(シンコペーション)がしば
しば現れて拍子の正規的な進行を意図的に乱した作譜がなされてい
る。
ヘンデルグローリア
2024.1.20 末吉朋子さん ヘンデルグローリアが百八讃に非常に似ていた。 (拡大)
|
百八讃
ひゃくはちさん 金剛界曼荼羅の根本成身会の百八尊の仏名を唱誦してその徳を讃嘆する曲。
序破急の三段の区分の明確な曲の代表的なもの。
甲四智
こうしち
四智梵語讃乙様に対し同文の甲様の曲で、この曲は修法の終わりころに演奏されるので破曲調の略節で早く演奏される。
回向方便
えこうほうべん
回向というのは、法蔵菩薩が集められたすべての功徳を、一切衆生に与えてすべての人を仏の悟りに向かわしめ給うこと。
方便の原義は近づく,到達するの意。仏陀が衆生を導くために用いる方法,手段,あるいは真実に近づくための準備的な修行な
どをいう。
随方回向
ずいほうえこう 全ての法界に供養回向、導師が独唱する偈文で音用はない。
般若心経
はんにゃしんぎょう
退堂讃
たいどうさん 入堂の時に誦した四智梵語讃を唱誦し終讃という。
冬の響き、冬の輝き
年の瀬。4カ月ぶりに東京・調布の深大寺山門をくぐる。慌ただしい歳末の喧騒をよそに、閑静な境内は木立に囲まれて日溜まりになっている。
11月後半から2月中旬まで、厚い雲が低く垂れて陽の目に逢うことが稀なパリでは想像できない冬景色だ。
明るい光が射し込む本堂に入ると、原田節氏がオンド・マルトノの調整に余念がない。
オンド・マルトノはフランスのモーリス・マルトノが発明して、1928年に公開された電子鍵盤楽器。
マルトノはラヴェル、イベール等と同じく、ジュダルジュ門下の作曲家でもあった。
伝統的な弦・管楽器にない特異な音色や音程を微妙に変化させることが可能で、内部に弦を張ったりシンバルを吊るす
細工を施した数種のスピーカーを使うから、電気的な音だけでなく、人の声かと粉う有機的で肌触りの良い音も奏でられる。
パリ国立音楽院にはオンド・マルトノ科があり、ミヨー、オネゲル、ジョリヴェ、メシアン等フランス近・現代作曲家が好んでこの楽器を用いている。
本堂の木造空間がもたらす柔らかで明瞭に響く自然な音響特性は、ニュアンスに富んだ温もりのある電子音と見事にマッチしている。
深大寺天台聲明は昨年9月にジュネーブとパリで海外公演を成功裡に終えた。
この公演に尽力のあったフランス在住の作曲家丹波明氏とプロデュースされた大西信也氏は、楽劇〈白峯〉以来の名コンビ。
2014年9月21日の京都・白峯神宮に於ける崇徳天皇八百五十年祭で〈白峯〉奉納初演の指揮を執ったので私も仲間に加えて戴き、
海外公演出発前に壮行会公開リハーサルを聴いた。
今回の帰国演奏会は第一部を丹波氏や深大寺にゆかりのある人の演奏ということで原田氏の他、
尺八の福田輝久氏と三味線の杵屋子邦氏による丹波氏の〈音の干渉〉、篳篥の高桑賢治氏と龍笛の越後眞美氏による〈白柱〉に加えて、
ヴァイオリンニストの家内も吉田進氏の〈木霊〉とバッハのソナタ第一番より〈アダージョ〉を弾いた。
休憩を挟んで第二部の聲明が始まると、堂内の雰囲気はがらりと変わって内省的な空気が張り詰めた。
張堂完俊ご住職率いる骨太な唱和は御簾を震わせ、黄昏時の迫り来る闇の中に灯明台の焔が揺れて、密教的な色彩をいやが上にも高める。
〈合曼荼羅供〉は一時間を越す壮麗な大曲で、聲明の醍醐味を満喫した。
矢崎彦太郎(指揮者)
丸善「學燈」春号 ――音を編む |
―― 感想をお寄せいただきました
多くの植物が休眠する季節、コバルトブルーの空に対比して、ツアブキのカッキリした黄色が目にしみます。
この度は「深大寺 天台声明の会」へお招き頂きありがとうございました。大変素晴らしい企画で、声明を聴くだけでも贅沢なのに、
聴きごたえのある演奏の数々、よくこのようなメンバーが集まったものだと驚きました。
「音の干渉」の尺八、三味線。これまでも尺八や三味線の演奏は聴くことがありましたが、
このように幅のある変化に富んだ演奏は初めて聴きました。これほど変化を持った演奏ができる楽器は、
西洋には無いのではないかと思いながら聴いていました。
ところが、「木霊」でまたビックリ。ヴァイオリンもすごいですね。技巧の変化だけでなく、演奏の気迫に圧倒されました。
それは聴きなれたバッハのソナタ第一番でも同様。時に不協和音とも思える旋律が緊迫した状態でガンガン進み、背筋の緩むことがありませんでした。
オンド・マルトノ。この珍しい演奏を再び聴けるとは。しかも間近にこの楽器の単独の演奏を。
導入部は水琴窟のような深く染入る響きでした。続いてチェロのような音色の旋律が流れ、演奏に先立っての解説をなるほどと得心した次第です。
「盤渉調 音取」75年も生きてきたのに全く聞いたこともない日本語はあるものですね。
他の季節の「調」と言葉の由来も知りたいものです。小学生の頃から12音階で教育されてきた耳には雅楽はなかなかすんなり入ってこないのですが、
このように間近に演奏を聴いていると、遠い昔から引き継いできた遺伝子が打ち震えるように感じます。
この感性は今後の私の制作の根底に置いてもいいように思われます。
第一部に通底する主題は自然の一部としての人間の在り方と受け止めました。私たちの活動の一つに「ブナの森の会」があります。
夏休みに「森の学校」を企画し、そのプログラムの一つは『森を感じよう』です。森の中に入って一人ひとりそれぞれに散り、
一定の時間無言ですごします。この企画は子供たちにも好評で、五感の全てで森を感じている様子が感想文からうかがえます。
自然に寄り添う生活の大切さを強く感じます。
さて、お待ちかねの声明。前段のご住職のお話しさすがですね。ユーモアたっぷりで伝えたいことをきちんと伝える。このような方の法話なら聞いてみたいですね。
法話と言えば家内が帰り道こんなことを話していました。幼いころおばあちゃんにくっついてお寺に法話を聞きに行くのが楽しみだった。
6人兄弟でいつも私だけがくっついていった。
家内は今回の声明を聴くことを私以上に楽しみにしていました。幼少期を富山で過ごした家内にとって、
声明の韻律は五体の深奥まで染み込むもののようです。私はグレゴリオ聖歌を思っていましたが、
言葉の意味がわかればこれはグレゴリオ聖歌の比ではないほどの文化ですね。
御簾越しの視覚的な効果、5時の鐘の音も計算に入っているのでしょうね。暮れ行く障子の影、きらびやかな天蓋、力強い読経、立ち振る舞い、身じろぎもしない聴衆。すべて見事なアンサンブルでした。
大西さんの語りもアットホームでよかったです。それぞれの演奏についての説明も理解の助けになりました。
2015年12月23日 三浦利文(画家・元桐朋短期大学学長)
|